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理事エッセイ

2016年10月
「次世代人財の育成」 理事 小池利和 ブラザー工業株式会社 代表取締役社長


 ブラザーは今年の4月、新中期戦略「CS B2018」をスタートさせました。この「CS B2018」において私たちは、”Transform for the Future~変革への挑戦~”をテーマに、「事業の変革」「業務の変革」「人財の変革」の三つの変革にチャレンジしています。その中で今回は「人財の改革」において重要なポイントとなる次世代経営人財の育成についてお話しします。

 最近、多くの企業が社を挙げて人財育成を進めていると思いますが、当社では、通常の人材育成プログラムに加え、「テリー’sチャレンジ塾」と称して、私が入社以来経験してきたことを若手・中堅社員に語りかける勉強会を実施しています。ちなみに「テリー’sチャレンジ塾」の「テリー」とは、23年間駐在していたアメリカの販売子会社での私の愛称で、大好きだったプロレスラーのテリー・ファンクから取っており、今でも私は社内では「テリーさん」と呼ばれています。

 私のアメリカ駐在は、「(日本で開発したプリンターを)明日からアメリカに行って売ってこい」と当時の上司に言われ、英語もあまり話せない上にプリンターのビジネスもよくわからずとにかくがむしゃらに頑張る、というところからスタートしました。入社3年目の事でした。その後、アメリカで情報通信機器のビジネスが急拡大する中、商品企画、マーケティングのみならず、会社のインフラ再構築のためサービス体制の向上、ロジスティックの改革、新たなITシステムの導入など、さまざまな仕事に自ら首を突っ込んできました。こういった経験を糧とし私は経営の感覚を磨いてきたのですが、現在のブラザーの状況を見ると、会社が大きくなったこともあり従業員に同じような経験を積んでもらうことができません。そこで自分の経験を次世代の人財に伝える場を設けようと、チャレンジ塾の実施に踏み切ったわけです。

 「テリー’sチャレンジ塾」の1期目、2期目は役員からの推薦を受けた従業員が対象でしたが、3期目となった今期は、「10年先、こんなブラザーにしたい!」と熱い想いを持った従業員を集めようと思い、公募を実施しました。その結果、開発、製造、技術、営業などの各部門に加え、塾が始まる時期には帰任が確定していた海外出向者などからも応募があり、29名の塾生を迎えることとなりました。平均年齢は34歳で、これまでより5歳若返りました。

 「ブラザーの新たな価値を提示したい」「将来ブラザーを自らの手で変えていきたい」「次世代の新規事業をつくりあげたい」といった熱い想いを持った人財がブラザーグループに一人でも多くいて、その志に向けて心折れることなく挑戦し続けている。それがCS B2018における「人財の変革」で目指す姿です。私は「この会社はオレががんばらなきゃだめだ」と強く思い、入社した時から自分自身で考えたことをいつも口に出し、言ったからには信念を持ってやらなければと行動をしてきました。ブラザーにはそのようにできる環境もあったと思いますし、何よりも「この会社を牽引していくために力の限りを尽くしたい」と強く思っていました。

 なるべく若いうちから、自分が会社のかじ取りをする、例えば「将来はこのプロジェクトや事業を背負って立つ」などという目標を持っていれば、仕事がうまく行かないことを他人や環境のせいにすることなく、将来の目指す姿に向けてとにかく前に進もうという気になれます。私がアメリカにいるころ、新たなプリンターのビジネスを始めるべきだと決意したときも、成功の可能性は決して大きくはありませんでしたが、何とかモノにしたいという一心で先輩を巻き込んだり、本社の役員の方に提案をしに行ったりし、その実現に向けて突き進んでいきました。その中で「考えていることを冷静沈着にロジカルに、でも想いをこめて伝えること」や「成し遂げるために何があってもひるまずに実行に移すこと」を学びました。

 そして万が一失敗してもそこから得られた貴重な経験やノウハウが蓄積され、将来必ず活かされる機会がやってきます。また従業員が会社の決めたとおりにやってうまく行かなかったとしても、その責任は会社にあります。そして会社の最終的な責任は、それを決断した社長にあります。ですから従業員の皆さんには安心して失敗を恐れず新たなことにチャレンジしてもらいたいと思っています。

 このチャレンジ塾は1日8時間の講義を年7~8回開催するのですが、その中で私が約3時間にわたる講義を5回は受け持っており、準備にも相当な時間がかかります。それでもブラザーが未来永劫に成長し続けるためには、次世代人財の育成は私の大きな使命だと考え、毎回情熱を込めてやっています。