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理事エッセイ

2023年10月
「ゼネラリストとスペシャリスト」 理事 樫尾 和宏 カシオ計算機株式会社 代表取締役 会長

 先日、若手の社員から、「ある程度なら広く何でもできる」と「これだけは絶対負けないという強みがある」では、どちらが今後仕事をしていく上で大事になっていきますか?と質問をされました。急激に変わりゆく時代の中で、社員も会社も変革していく必要がありますが、社員目線と会社目線でこの両者について考えてみました。
 企業において職種を大分すると、ゼネラリストとスペシャリストに分けられます。あらゆることに精通し、何にでも対応できるゼネラリストを目指すのか、この分野なら誰にも負けないという強みを持つスペシャリストとして一つの道を究めるのか。『人生ゲーム』の分かれ道と同じように、企業に就職してからもこの分かれ道が存在します。平たく言うと、経営者コースと専門職コースです。
 これからの時代、どちらの能力が求められるのでしょうか。安定した仕事を求めるのならスペシャリストで、日本の企業に不足しているのはゼネラリストではないかと思います。例えば、経理やマーケティング、回路設計、特許など、スペシャリストを究めないと出来ない仕事は非常に多くあります。部門に配属され、経験を積んでスペシャリストとして一人前の仕事が出来るようになります。アメリカや中国など海外の多くでは、スペシャリストとしての仕事を習得すると、給料のより高い他企業へ転職するケースが多く見られます。日本の企業においても、離職率は近年増えつつあるように思えます。また、企業内におけるスペシャリストの仕事が、部門の仕事を運用することが主体となり形骸化してしまっているのも問題ではないかと思います。これからのスペシャリストに求められる素養は、従来型の仕組みの中で専門分野の力を発揮する生産性向上型から、変わりゆく時代の変化に適応するために新たなことにチャレンジする創造力発揮型へと変わってきているのだと思います。スペシャリストを目指す皆さんは、失敗を恐れずに創造力を発揮していただきたいと願っています。
 ゼネラリストに求められる素養も変わってきています。今の日本の企業経営が必要としているのは、会社を変革できる強い意志と情熱を持ったゼネラリストです。会社全体でビジネスモデルの再構築を行わなくてはならないのに、なかなか変えられずに困っているケースが多くあります。しがらみに負けて、保守的すぎると何も変えられません。変革し続けることが今後の日本企業にとって必要です。変革できる強い意志と情熱を備えたゼネラリストになって、企業を、日本を元気にして欲しいと思います。
 近年、パーパス経営、人的資本経営が注目されていますが、平たく言うと、自社の強みと社員の情熱を最大化して、社会貢献に繋げるということだと考えます。従来型の仕事の仕方は限界を迎えており、部分最適型の集合体は効率化こそ実現できますが新たなイノベーションは起こりません。過去の成功体験を忘れて、自社の強みを活かすこと、社会貢献することを目的として、ゼネラリストとスペシャリストが失敗を恐れずに力を合わせて挑戦を続けることだと思います。
 当社は、事業が停滞してしまっていると反省しています。これから当社は、既存事業においては新しい時代に適応するために事業変革を行い、そして新たなイノベーションを起こしていきたいと考えています。行うべきことは、自社の強みと社会貢献を結びなおすことだと考えます。そして、その新たなゴールに向かって社員の情熱を原動力として皆で力を合わせることではないかと思います。
 当社は、「創造 貢献」の企業理念のもと、リレー式計算機、電卓、デジタル時計、電子楽器、デジタルカメラなど、これまでにない新しい必要を生み出すことで社会に貢献してきました。これからも新たなイノベーションを起こすことが私たちの存在価値であり、必ず新たな社会貢献をしていきたいと思います。
 会社が一丸となって新たな未来を創っていくためには、企業理念の浸透が最も重要であると考えます。浸透とは、「創造 貢献」の原点に返って、社員一人ひとりが創業の精神で、創造力を発揮することです。創業の精神を社員一人ひとりに伝えていき、共感を得ながら社員と共に必ず新しいイノベーションを起こしてまいりたいと考えています。
 最後に、若手の社員にはこう答えました。
「ゼネラリストを目指すにせよスペシャリストを目指すにせよ、ロジックと情熱を持って、新たなイノベーションを起こす挑戦をし続けてほしい。」