私は1978年の入社で、入社してからの最初の20年間は海外事業に従事し、北米・シンガポールに延べ12年間駐在しました。また国内に在籍している間は、海外事業部に所属していました。その後、40歳半ばに国内に転じ、営業本部・事業本部あるいは企画等を担当することになり、現在に至っています。振り返って思うのは、当社の通常のパターンである国内経験から海外へという順序ではなく、最初に海外事業関連に携わり、その経験をベースに国内へシフトというように、若い時に欧米流の人生観、ビジネススタイルを体感・実感させたもらったことが、多少なりとも私のビジネス人生においてプラスになっていると感じています。
そのことを踏まえ、今、当社では、100年企業に向けたグローバル成長戦略を牽引する幹部候補及びリーダーを計画的に育成するための「グローバル人材育成プラン」という制度を設けています。次世代を担う若手を対象に、海外グループの組織人事とは別に、一定の人数を海外に赴任させ経験を積ませています。また、より多くの社員にチャレンジの機会を与えるために英語学習の補助制度を設け、語学力の習得も図っています。
現在、各企業で生産性向上のための業務の簡素化、自動化、デジタル化、あるいはそのための投資等、「働き方改革」が経営課題として進められています。私のつたない海外経験から働き方改革のファンダメンタルな部分について2点コメントさせてもらいたいと思います。
1点目は海外、特に欧米では、今もそうですが、私がアメリカに駐在していた1980年代でも、長時間労働、サービス残業という言葉自体、ほとんど耳にするワードではありませんでしたし、ほとんどの社員は定時に出社退社するのが当たり前でした。これはひとつには労働観の違いで、長時間労働を美徳とみる日本と、労働自体を悪とみる欧米では、おのずから仕事に対するスタンスが違ってきます。ここでポイントになるのが、欧米人は人生を謳歌するために当然の事ながら余暇を楽しむ術を心得ていること。例えば、早く家族と楽しいひと時を過ごしたい、あるいは、自分の趣味、好きなことしたい、その為に、定時間内に仕事をおえようとするモチベーションが働く。これが結果として、生産性向上にも繋がっているということです。一方、日本人の場合はどうかというと、そういった欧米型スタイルのマインドを持っている方もいらっしゃいますが、一般的には定時に毎日帰宅しても、何をしたらよいのか途方に暮れる、あるいは私もそうですが、1カ月の長期休暇をもらっても、何をしたらよいのか困惑してしまう。従って、日本の場合、まずは余暇を楽しむための趣味を広げる努力をすることも重要で、これは個人の自助努力だけではなく、企業もそういったプログラムを提供していくことが肝要であると思います。言い換えると仕事の効率化を目指す生産性の向上と趣味を広げプライベートライフを充実させることの双方が実現できて初めて、働き方改革の目的のひとつあるWORK-LIFE-BALANCEが現実のものになると思います。
2点目は、欧米では、入社時に仕事の範囲を定める職務記述書が一人ひとりに示されます。つまり、その仕事を終えれば、基本的には他の人の仕事を手助けする必要はないということです。日本の場合は個人の仕事の範囲が曖昧で、自分の仕事を終えたとしても、他の人の仕事を手伝うことが期待されます。従って、チームプレイという意味では日本流の方が良さそうですが、個人毎の生産性を上げると言う意味では欧米スタイルの方が理にかなっており、生産性を上げるために重要なことは、個人の職責とチームプレイのバランスをどこに置くかを明確にしておくことであると言えます。
そういったこともあり、当社では、「働き方改革」推進についてもまずは全員の意識改革(公的には生産性向上と私的には趣味を広げる)から取り組んでいます。さらに、海外と国内の良い点を踏襲し、「アマノ流働き方改革」と銘打って、従来の固定的な仕事の進め方・流儀から脱却して、ゼロベース(新しい視点で)で各種業務の進め方・枠組みを新たに考え、生産性の向上に結び付けていこうという活動を推進しています。具体的には、個人ベースでは一人ひとりが体内時計を変えて、仕事の優先順位を考え、スケジュール管理を徹底し、定時間内に仕事を終えることを目指す。一方、管理職は、マネージメント力を強化すべく、自分の部下がどういった仕事に従事し、今後どういった仕事をする予定なのかを把握し、業務で工数の不足が想定される場合には、ワークシェアリング等の必要な措置をタイムリーに実行するということです。
従って、社内的には今後も引き続き、個人のWORK-LIFE-BALANCEの実現、生産性向上による持続的成長の実現に尽力してまいりたいと思いますし、対外的には、JBMIAの会員企業として、これからも人と時間、人と環境の分野で新しい価値を創造し、安心・快適で健全な社会の実現に貢献してまいる所存です。