当産業協会に関わる品目の中で、最も大きな出荷金額を占める複写機/複合機の日米欧での需要は、モノクロではマイナス成長、カラーも伸びが小さく、国によっては、全需マイナス成長に転じている。中国でさえ、カラー市場はまだ伸張する余地を残しているものの、モノクロはほぼ頭打ちという状況になっている。当協会が半年に1度公表する出荷統計からも、この状況は窺える。こうしたトレンドは、今後の当協会の活動にも当然影響を与えることになる。
産業協会の役割は、産業団体として一つになることで、外部機関に対する発言力を高めるという側面(環境規制、安全規格などへの対応、通商政策への対応などはこれに相当)もあるが、顧客・社会に対する製品・サービス供給者としての責任に産業団体として対処する、という重要な側面がある。ユーザーインターフェースやユニバーサルデザインの統一、製品リサイクルや情報セキュリティ問題への業界としての対応等を当協会でも進めてきた。昨今、FacebookのザッカーバーグCEOが個人情報流出・流用問題で責任を問われているが、一企業の問題でなく、個人情報を価値の源泉とするSNSやインターネット・サービス業界全体の潜在的問題であり、顧客・社会に対する供給者責任を考えるなら、業界全体として対処すべきだった課題といえるかもしれない。
ということで、「顧客・社会に対する責任に産業団体として対処する」という役割を考えれば、複写機/複合機の市場規模が縮小局面に入ったからといって、当協会の活動がそれに比例して縮小すべきものではないが、当協会の活動の活力が継続するには、製品・サービスの進化、事業の進化が必要であろう。これは協会の課題というより、会員各社が取り組むべき、そして取り組んでいる課題である。複写機/複合機事業とは別の事業に軸足をシフトするのも、会員各社の対応の方向性の一つであるが、例えば、ヘルスケア事業や産業用光学事業は、当協会のスコープ外であろうから、当協会の活力を継続するには、あくまで複写機/複合機事業、ビジネス機械事業の進化を会員企業がどう行なっていくかに懸かっている。これについて、見解を述べてみたい。
一つの方向性として、成熟市場であっても、顧客が不都合と思っていることを解決し、顧客が利便性を感じる製品を提供すれば、まだまだ販売を伸ばせる余地はあると思う。事実、当協会会員企業の一社は、これを忠実に実行した製品を出すことにより、昨年販売を伸ばしたと、私は認識している。一方、日本市場は、消耗品の販売金額、カラー機の販売台数が米欧に先駆けて下降トレンドに入った。日本市場はカラー機への置き換えが世界の他の地域より早く進行したので置き換えが頭打ちになったことも一因であろうが、それだけでなく、「カラー機を買ったのにカラーコピー価格(プリント価格)が高いので、社員に対し、カラーコピー禁止、と言わざるを得ない」という、日本の企業顧客の不都合な状況を放置してきた結果だと、私は認識している。北欧のように「オフィス業務の生産性向上のためのITの積極的・戦略的活用」が浸透した結果ではなく、経費削減の指示に社員が従った結果であり、無理してペーパーレスにした結果、生産性や業務の有効性が低下している部署もあるだろう。
こうして放置されてきた顧客企業の不都合に対し解決を図るべく、当協会会員企業の一社がビジネス・インクジェットを投入してきた。私はこの製品投入は、「成熟市場といえども、顧客の不都合を解決してあげればビジネスを伸ばせる」ことの好事例として、先々ビジネススクールで紹介されることになるかも知れないと思っている。当社含め、既存各社は、放置してきた顧客企業の不都合にどう対処するのか、知恵を絞る価値があると思う。そうして当協会の特長である、会員各社間の切磋琢磨をしていけば良いと思う。
もう一つの方向は、私たちの先人が賢明にも協会の名称を、「ビジネス機械・情報システム産業協会」と定めてくれたことに敬意を表し、従うことだと思う。すなわち、ビジネス機械とITとの融合・共存を図ることだと思う。これについては、まさに会員各社が現在取り組んでいることだと思う。この方面での、当協会全体として足並みを揃えた活動実績としては、BMLinkSや情報セキュリティ対応などがあるが、全体としてまだ数少ないと言わざるを得ない。前回理事会で審議した2018年度事業計画には、この方面での協会としての一体感を意識した取り組みが見られるので、良い傾向だと思う。データの利活用など、現在各社で取り組んでいるビジネス機械とITとの融合が、あるところまで進めば、製品・サービス供給者としての顧客・社会への責任という観点から、協会全体としての取り組みが進むと思う。
つい最近、AmazonがスマートTVの販売で量販店のBest Buyと提携するという発表があった。リアルとサイバー、ハード機器とインターネットが融合してビジネス機会を追求する時代に本格的に突入したと思う。デジタルカメラも、インターネット上のSNSであるインスタグラムとうまく結びついて需要が復活した。複写機/複合機をはじめ当協会企業が提供するビジネス機械がITとうまく融合・共存して会員各社の成長が持続し、当協会の活力が継続することを願ってやまない。
以上