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理事エッセイ

2020年10月
「新型コロナウィルス雑感」 理事 羽山明 理想科学工業株式会社 代表取締役社長

 2020年が新型コロナウィルス感染症COVID-19の年、コロナ禍の年として記録される事は言うまでもありません。年明けから世界各国で猛威をふるっており、世界の累計感染者数は4千万人を超え、累計死者数も110万人を超えました。(2020年10月現在)よく比較される2007年からの世界金融危機では不良債権のため金融機関の機能不全が起こったことにより経済活動が回らなくなりましたが、今回は感染症の治療や抑止のために世界中の経済活動が抑制されるということで、幅広い国や地域、そしてさまざまな業種のビジネスで大きな影響を受けることになりました。

 オフィスでお使いいただくプリンターをなりわいにしている当社も影響を受けています。経済活動が抑制されオフィスの稼働率が低下することによってプリンターのプリント枚数も減少し、結果として消耗品の出荷に影響が出ています。オフィス用プリンタービジネスを行っている会社に共通して発生した現象ではないかと思います。

 私は以前から、オフィス用プリンタービジネスは「潤滑油産業」だと思っております。人間の生活を司る根幹はやはり衣・食・住にあり、豊かな生活と社会を実現するためにこの3つの柱を軸に様々な経済活動が行われています。経済活動に必要な情報は重要度を増しており情報産業は第4の柱とも言われることもありますが、オフィス用プリンターはこれらの情報をスムーズに人に伝えるためのツールであり、オフィス用プリンタービジネスは経済活動をお手伝いしてスムーズにするという潤滑油の役割を果たしているのです。

 社会の潤滑油に徹するため、当社はこれまで顧客志向を心がけ、特にお客様が安心してお使いいただける体制の構築に力を入れて参りました。配送体制の構築と改善、故障した機械への迅速な修理対応、故障を少なくするための改良など、お客様のためにたゆまざる努力を行ってきたと自負しております。しかしコロナ禍が始まり、「お客様がオフィスに出社せずプリンターをこれまでのようにお使いにならない」という経験したことのない状況に直面し、「われわれは当社のお客様、そして世界中の人々が経済活動をすることによって生かされている存在である」と言う気持ちを強く抱きました。お客様企業が積極的な会社運営をされていることにより経済活動が回り、それによって潤滑油である当社も「生かされている」ことを、消耗品の出荷量の減少によって身をもって実感することになりました。コロナ禍の中で、これまで以上にお客様のありがたさを感じております。

 他にもコロナ禍によって感じたことはいろいろあります。その1つは「エッセンシャルワーカー」ということばへの違和感です。医療従事者が未知の感染症に立ち向かう姿に対し、医療従事者を「エッセンシャルワーカー」として応援する運動があり、医療従事者に対する感謝がさまざまな形で表現されました。私は、このことは素晴らしいことであり賛同しております。また医療従事者が「エッセンシャルワーカー」であることに疑問はありません。しかし、社会変容の中で苦労し努力しているさまざまな人々のことをニュースで、そして身の回りで見ているうちに、「エッセンシャルではない「ノンエッセンシャルワーカー」はいるのであろうか」という思いが心をよぎりました。どのような人、どのような仕事をしている人であっても必ず誰かの役に立っているはずであり、「ノンエッセンシャルな」「エッセンシャルではない」仕事をしている人はいないのではないか。コロナ禍がさまざまな産業に影響を及ぼす中で苦境にある方々の存在が報道されると、「コロナ禍に苦しむ全ての人に支援・助けが必要なのではないか」との思いを新たにします。

 日本では2018年11月から景気の後退局面に入ったとされる中、2020年にコロナ禍に襲われてしまいました。業種業態にかかわらず全ての会社が今後の存続をかけての様々な模索を行っており、中には今後の展望が開けず、心細い気持ちになっていらっしゃる経営者や従業員もいらっしゃることと思います。社会に生かされている「潤滑油産業」の経営者として、すべての会社、そしてその従業員の皆さんが安心して活動ができる環境が戻ってくることを願うばかりです。

 このような中、当社の業績も昨年に比較して低調に推移しておりますが、どのような困難な状況においても利益が出る体質を実現し維持することは会社経営者の責務です。むしろこれからが勝負だと思い、気持ちを奮い立たせております。