Special Contents

理事エッセイ

2025年4月
「世界の種々の出来事との遭遇」 理事・副会長 大幸 利充 コニカミノルタ株式会社 取締役 代表執行役社長兼CEO


 私が社会人としての歩みを始めたのは1986年4月、そこから数えてちょうど40年になる。この間に、世界で起こるいろいろな出来事に遭遇し、多くの影響を受けながら対応してきたように思う。
 入社した1986年当時は、日本は既に米国との通商問題の真只中だった。巨額の貿易不均衡是正の手段として、知的財産権の盗用疑惑や不正使用の疑いに対して、個別訴訟や米国関税法337条(輸入品の排除、不公正行為の差し止め)の発動が起こった。また米国内の産業が特定商品の輸入急増により深刻な損害を受けたり、その恐れがある場合には通商法201条を発動して該当製品の輸入制限を課そうとしてきた(例:カメラ、自動車)。そのたびに、これらの制約下においても持続的な会社成長を実現するために、時には個社で時には業界団体を通じて、自らの正当性を主張し妥協策を見出す努力を繰り返してきた。これらの過去からの積み上げてきた対応力は現在にも生かせるものが多々あると思う。当時米国では日本に対する排他的トーンが強かったので、1990年に初めて米国に出向した際には、現法社長から「日本人出向者はアメ車を買うように」と指導を受け、自分用と家内用に2台もアメ車を購入した。今だったら絶対こういう選択はしなかっただろう。当時は日本への排他的環境の中でいかに現地に溶け込む努力が大切だったか。今で言うSocialの一部を一人一人の日本人出向者も実践していたのではないだろうか。
 この頃の世界は、1989年の冷戦の終結、ベルリンの壁崩壊と、学校で学んできた歴史が崩れ去り、1990年の湾岸戦争勃発の映像により、戦争が過去の話ではない事と身近に感じざるを得なかった。海外出張に際して安全の確保ということを意識し出したのもこの頃だったと思われる。
 湾岸戦争を期に原油価格は1バレル20ドルから40ドルに高騰、米国ではガソリンは水より安いという感覚だったので、ガソリン価格が当時急に高騰したことには驚いた。(今は1バレル60ドル超えなので、湾岸戦争前の3倍超。) 
 1992年に入ると中国では鄧小平の登場により高度成長のはじまり、1993年にはアメリカに対抗しうる経済圏形成の狙いからEU発足があり、日本では円高対応から多くの企業が生産機能を人件費の低い中国へシフト、加速させて国際競争力確保に躍起になっていた。
 当時は世界が協調しながらも各地域、国が発展を目指す、新しい世界秩序が生まれようとする時代だったのかもしれないが、この当時の時代形成がもっと上手くいっていたら、私の勝手な思い込みかもしれないが、現在の世界の姿ももう少し変っていたのかもしれないと感じることがある。
 時計の針を少し進めると、2001年に米国同時多発テロが発生、2008年にはリーマンショックがあり、2011年の東日本大震災、2019年からのコロナと、21世紀はそれまでとは試練のレベルが異なっている。世界貿易センタービルがあっという間に崩壊してく映像を誰が想像したであろう。世界経済があっという間に一変したリーマンショックでは、当社でも初めてグローバル且つ大規模な人員整理をやらざるを得なかった。東日本大震災では自然が人類に与える脅威を目の当たりにし言葉を失ったと同時に、サプライチェーンの脆弱さを突き付けられた。2019年末からのコロナによって、未知のウイルスがこんなに世界中のあらゆる活動を停止させてしまうのかということと、世界はこんなに隅々までつながっていたのかと思い知らされ、愕然とした。ここまでの21世紀は、企業にとっては危機管理対応とリスクマネジメントの時代といっても過言ではない。
 2017年にトランプ第1次政権が発足し、米ロ、米朝、米中と、それまでのとは異なる世界秩序の形成に向けた動きが活発化した。その中で、取り分け中国がGDPで米国を抜く時代の到来も予測されるようになり、米中の対立が深まるにつれ、経済安全保障という新しい概念が生まれ現在に至っている。この時も日本企業は経済安全保障に対応する努力を怠っていない。
 2025年1月20日のトランプ第2次政権発足後、トランプ大統領の映像を見ない日はほとんどない。その日以来、トランプ大統領令のサイトチェックが朝一の私の日課になっている。それくらい、トランプ政権の発信が世界の様々のことに影響力を与えている。
 これからは21世紀24年間とは少し違ったより人為的な危機、リスクの試練への対応を求められる時代の始まりではないかと感じている。もちろん、ネガティブなことだけではなく我々にとって成長の機会もあるはずで、ブライトスポットを見つけていく努力がより一層大事になってくると感じている。
 世界の種々の出来事に影響されながらも進化、成長を続けてきたわけであり、これからも知恵を出して難局を乗り越えていきたいと思う。
 
(拙い文章にお付き合い頂いた皆さんに感謝します。)