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理事エッセイ

2019年10月
「社内コミュニケーションの大切さ」 理事 小池利和 ブラザー工業株式会社 代表取締役会長


私は社内のコミュニケーションにおいてFace to Faceの交流を大切にしてきました。ブラザーには、優れた実績をあげたグループ会社を表彰する社長賞という制度があります。以前は、名古屋の本社に受賞会社の幹部を招待して表彰していましたが、私が社長に就任してからは、自ら現地に赴き、表彰する仕組みに変えました。これは、国内外問わず、現地の従業員に感謝を伝えると同時に、私の想いを直接伝えるためです。受賞会社は、わざわざ本社の社長がやって来るということで、表彰式はもちろんのこと、工夫を凝らした余興や催し物などいろいろ準備をして待っていてくれました。多くの従業員が笑顔で出迎えてくれ、心から歓迎してくれるので、それがモチベーションとなり、たとえ地球の反対側であっても、がんばって行こうという気持ちになり、社長時代の11年間、なんとか続けることができました。現在は会長という立場になりましたが、今後も機会を見つけて従業員とのFace to Faceの交流を続けていきたいと思っています。

ほかにも、若手エンジニアの声を直接聞いて意見交換する語る会や、私が講師を務め、ブラザーの次世代を担うリーダーを育成するチャレンジ塾なども、これまでの私の経験を直接伝えることで、従業員のチャレンジを支援したいとの想いから始めました。チャレンジ塾は、毎年30人程度の若手から中堅社員を対象に、私の講義に加えて自分たちが将来挑戦してみたいテーマを取り上げて、1年弱にわたってどう実現していくかを考え、最後は全役員の前で発表するプログラムです。途中で複数回、私との1対1の面談もあり、直接いろいろなアドバイスをしたり、挑戦の後押しをしたりしています。社長時代にはじめたこのプログラムは今年で6年目を迎え、今まで150人を超える塾生が育っていき、さまざまな部門で活躍してくれています。

さらに、フォーマルな交流の場に加え、プライベートでの交流も大切にしてきました。例えば、若手従業員が毎年企画してくれる花見、飲み会、カラオケ、各種スポーツ大会には出来る限り参加しています。社内有志の集まりで定期的に開催されるナゴヤドームでの野球観戦ツアーにも参加して、従業員と一丸となって応援しています。こういう場でこそ本音を聞くことができたり、その人の本当の姿が分かったりするので、プライベートでの交流はとても大切だと思っています。また毎年7月には工場を地域のみなさまにも開放し、ブラザー夏祭りを開催しています。従業員はもちろん、日ごろお世話になっている地域のみなさまとも交流をはかる貴重な機会となっています。

一方で、残念ながらすべての従業員と直接交流できるわけではありません。そこで活用してきたのが、従業員向けのブログです。23年半に及ぶ米国駐在を終えて帰国した2005年に始めて2007年の社長就任、2018年に会長就任と、立場は変わりましたが、今に至るまで一時期の中断期間を除き15年以上配信し続けています。ブログのタイトルは「テリーの徒然日記」。テリーとは、私の米国駐在時代の愛称で、帰国後も社内では役職や所属に関わらずほぼすべての従業員から「テリーさん」と呼ばれています。アメリカ人には私の名前「としかず」が発音しづらかったので、プロレスラー「テリー・ファンク」から名前をもらった呼び名です。従業員向けの公式な情報配信として「テリーからのメッセージ」を配信し、それとは別に「テリーの徒然日記」として、家族のことや、外出先でのハプニング、趣味のことなど、ビジネスとはあまり関係ない話を取り上げました。社長でも休日にやることは普通の人と同じだと分かってもらうことで、従業員に親近感や好奇心をもってほしい、そして「明るく・楽しく・元気よく」働いて欲しいという想いで書き続けました。

はじめは週に1回の更新だったのですが、従業員のアクセス数の増加が追い風となって、いつの間にか週2回更新になり、2017年5月には通算掲載1,000回を越えました。その後、社長退任を期に連載を終了したのですが、再開を望む従業員の声が強く、「テリーの徒然日記・リターンズ」として、現在は2週間に1回配信しています。

社内のコミュニケーションは「きめ細やかな経営」を実践する上で必要不可欠です。コミュニケーションにより従業員との距離を縮めることは、家族的で働きやすい雰囲気を醸成しますし、良い情報も悪い情報も入りやすくなります。また従業員の人となりを知ることが、最適な組織運営や適材適所の人員配置を可能にします。先が読めないVUCAの時代において我々をとりまくビジネス環境もめまぐるしく変化しています。このような時代背景の中においても、ビジネスの根底に人と人とのつながりがあることは変わらないと思っています。