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理事エッセイ

2021年11月
「「宇宙の意志」と調和する心」 理事 伊奈憲彦 京セラドキュメントソリューションズ株式会社 取締役


 約2年に渡り、猛威を振るった新型コロナウイルス感染もやや落ち着きつつありますが、変異株による第6波も懸念されはじめており、現在は、期待と不安が入り混じった状況かと思います。そして、時代が大きく変化するウイズコロナ、アフターコロナへの対応が我々の課題となっています。
 このように我々は変革の時代を迎えていますが、弊社、京セラは創業者である稲盛和夫の実体験や経験則から導き出した「京セラフィロソフィ」と呼んでいる普遍の経営哲学をもっており、経営の羅針盤としています。
 このフィロソフィは、「人間として何が正しいか」を判断基準として、人として当然持つべきプリミティブな倫理観、道徳観、社会的規範にしたがって、誰に対しても恥じることのない公明正大な経営、業務運営を行っていくことの重要性を説いたものです。京セラの社員は、日常の判断や行動においては、こうした教えにもとづき、自分にとって都合がよいかどうかではなく、「人間にとって普遍的に正しいことは何か」ということから、さまざまな判断をすることを心がけています。
 そして、この心がけをしっかり実践できるよう全社員に手のひらサイズで携帯できる「京セラフィロソフィ手帳」が配布されています。この手帳には、人生の生き方や仕事への取り組み方などがまとめられており、日々の生活や仕事の中で京セラフィロソフィを理解・実践できるよう、輪読などを通して学び続けています。
 例えば、「心をベースとして経営する」、「原理原則にしたがう」といった経営の心得、正しい判断をするために「利他の心を判断基準にする」、「公私のけじめを大切にする」こと、そして、人生そのものを考える「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」、「動機善なりや、私心なかりしか」などが分かりやすく解説されています。そのフィロソフィの考えの中に『「宇宙の意志」と調和する心』というものがあります。内容の解説を以下に紹介いたします。

「世の中の現象を見ると、宇宙における物質の生成、生命の誕生、そしてその進化の過程は偶然の産物ではなく、そこには必然性があると考えざるを得ません。この世には、すべてのものを進化発展させていく流れがあります。これは「宇宙の意志」というべきものです。この「宇宙の意志」は、愛と誠と調和に満ち満ちています。そして私たち一人一人の思いが発するエネルギーと、この「宇宙の意志」とが同調するのか、反発しあうのかによってその人の運命が決まってきます。宇宙の流れと同調し、調和をするようなきれいな心で描く美しい思いをもつことによって、運命も明るくひらけていくのです。」

 私は、数多くあるフィロソフィの考えの中で、最近、この『「宇宙の意志」と調和する心』を特に意識するようになりました。

 現在、国連サミットで2015年9月に採択された持続可能な開発目標とした「Sustainable Development Goals」の頭文字をとったSDGsが全世界で叫ばれています。すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くために、貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正などの社会、経済、環境の3つの分野、17の目標を掲げ、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指しています。この目標を実現するためには、国や企業などのリーダーが協力して行動していくことは必須ですが、同時に国や企業だけに任せるのではなく、私たち一人ひとりの意識や行動も重要です。そして、JBMIAの会員企業の多くがこのSDGsの目標に同意、賛同していると思います。 長い人類の歴史は「宇宙の意志」と同調し進歩発展してきた一方、環境破壊に代表されるような「宇宙の意志」に反発することを継続してしまっていると思います。SDGsの方向性は、この反発した流れを是正し、「宇宙の意志」と同調し直すことではないかと思っています。

 ところで、私の好きな音楽グループのひとつにMr. Childrenがあります。このMr. Childrenの曲のひとつに「足音 ~Be Strong」がありますが、その歌詞の一部をとても気に入っています。それは、このような詩のところです。

「疲れて歩けないなら 立ち止まってしがみついていれば
地球は回っていって きっといい方向へ 僕らを運んでくれる
どんな人にだって心折れそうな日はある
「もうダメだ」って思えてきても大丈夫もっと強くなっていける」

 逆境で苦しい時、立ち止まってしまってもいい方向につれていってくれるという「地球は回っていって きっといい方向へ 僕らを運んでくれる」、そして、「もうダメだ」って思えてきても大丈夫もっと強くなっていける」というところが特に好きです。これは、宇宙や自然の流れに反発することなく同調していれば、立ち止まっていてもいい方向に連れていってくれる、そして、愛と誠と調和に満ちている「宇宙の意志」が人をより強いものしてくれると言っていると思います。

 現在は、新型コロナウイルスの感染拡大の波が継続している人類にとって試練の時です。ここ2年は、欧米のロックダウンに代表されるような行動制限、それによる経済活動の停滞がありました。そして、回復してきたものの、今後も変異株による感染拡大の波の再来も懸念されています。このような時は立ち止まって辛抱しないといけないこともあると思います。しかし、「宇宙の意志」と同調する、素直な心をもっていれば、立ち止まっていても必ずいい方向に導いていってくれるのではないでしょうか。

 このように愛と誠と調和に満ちている「宇宙の意志」と同調することが、人生においても仕事においても成功に導いていく基盤となると考えます。そして、自然を思い、まわりの人々の幸せを思い、「宇宙の意志」と調和する心を持ち続けることが、社会、人類の発展、そして未来の地球を明るい方向に導いていってくれると信じています。

 私は心を高める努力を繰り返すことによって宇宙の流れと同調し、調和することができる美しい思いをもち続けることを意識し、行動していきたいという思いが強くなりました。そのことから今回は「『宇宙の意志』と調和する心」について述べさせて頂きました。

 最後になりますが、皆さんが良き新年を迎えられることを祈願して終わらせていただきます。