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理事エッセイ

2022年4月
「DX時代の企業価値の源泉とは」 理事・副会長 山名昌衛 コニカミノルタ株式会社 取締役 執行役会長


 企業価値とは何だろうか。技術や人財などの無形資産、いわゆる非財務情報も含めた真の企業価値を明らかにしようとする動きは高まっているが、短期的な財務情報の表層的な分析に基づく偏った評価がなされることも依然として多い。この目に見えない企業価値の源泉について、私なりの考えをお話ししたい。
 私は企業価値の源泉の一つは、「社会価値を自分ごと化できる力」であると考えている。社会の変容とその真の原因を深く洞察することで、解決すべき真の課題が見えてくる。社員一人ひとりが社会課題に関心を寄せ、社会と自分のつながりを意識することは、社会に新たな価値を創造する原動力となるだろう。その意味においても、自社の本業ど真ん中において、社員が新たな価値創造の取り組みにオーナーシップをもち、日々の活動を通じて創造的変革の実践に携わることが重要だ。イノベーションは本業から遠い飛び地の新規事業が担うものという誤解を解いておきたい。
 もう一つの企業価値の源泉は、「イノベーションを継続的に起こす力」と考える。デジタル技術の進展と未曽有のコロナ禍により、社会は急激に変化している。社会やお客様のニーズの変化を先読みして柔軟かつ能動的に対応し、価値を創造することが新たな収益機会につながる。すなわち、企業が事業活動において社会課題を解決することで、経済価値と社会価値が同期して拡大する。こうした成長事業を継続的に生み出していくことが、企業価値を最大化することにつながるだろう。


■ どのように企業価値を向上させるか

 企業価値を向上させる、すなわち、社員が社会価値を自分ごと化し、イノベーションを継続的に生み出す好循環を生みだすために、私が特に重要と考えることをご紹介したい。コニカミノルタでは、「価値創造プロセス」と称してこの一連の活動を行っている。

① 自社のパーパスを策定し、腹落ち感を醸成する
 社会における自社の存在意義を深く問うことで企業理念やビジョンなどの理念体系を見直し、自社によって大きな社会価値を提供できるテーマを「マテリアリティ」として特定する。その際には、10年、20年先の社会の姿を洞察し、「未来のあるべき姿」から「今何を成すべきか」をバックキャストして導き出す。一方で、不透明な時代であるからこそ、時代を超えて受け継いできた自社のDNAのこだわるべき軸を、時代に合わせて再定義する。過去から未来へのつながりを言語化することが重要である。ビジョンを定め、組織カルチャーを変革することはCEOの役割であるが、そのプロセスに、次だけではなくその次の時代を担う層を巻き込むことで、ビジョンやマテリアリティを実現するための価値創造活動に腹落ち感、すなわち共鳴と本気度、自律性を持たせることができると感じている。

② イノベーションを生み出す人財の発掘と育成
 イノベーションにおいては、熱量を持った異端の起業家人財の発掘と育成が必要である。お客様の課題とその解決策に仮説を持ち、深い顧客体験の実践を通して価値を構想し創造できる力、言い換えれば、論理を司る左脳だけでなく感性を担う右脳のポテンシャルをUnlockされたアート思考を備えていることが、リーダーの要件となる。そして、その構想をビジネスプランに落とし込む専門チームを形成する。DX時代に適したビジネスモデルの企画から提供、データ解析から新たな価値創出と、それぞれの分野におけるプロフェッショナルを育成し配置する。このように、多様なスキル・価値観を有する幅広い層の人財が、その能力を最大限発揮することが重要である。人財が自ら学び直し、スキルを向上してキャリアを切り開くためには、リスクテイクや自部門を越えた横っ飛びが奨励される風土を根付かせることが欠かせない。

③ 継続的にイノベーションを生み出す体制の整備
 これらの活動で新たな価値創出に手応えを感じたとしても、小粒な価値では大企業を支える柱にはならない。スケーラブルなビジネスモデルを確立して、それを稼ぐ力に転換できなければ、企業価値とはならない。事業活動のフェーズに応じて、それぞれにふさわしい組織能力を設計する必要がある。柔軟で機動的な運用が可能なステージゲート制のもと、走りながら判断していく、従来とは異なるマネジメントシステムの確立が求められる。また一社で出来ることは限られるため、スタートアップを含むパートナー企業と志を一にして、お互いを認め合い価値を大きくしていくことが重要だ。


■ 日本の産業界の復権に向けて

 JBMIA会員企業に代表されるグローバル企業の経営に、ここ数年多くの苦難が押し寄せている。立ち直りを待つのではなく、起き上がって更に伸びる契機としたい。
 B2Cのビッグデータ解析ではGAFAが世界を席巻し、その勢いはB2Bにも波及する勢いである。しかしながら、IoTの時代において、さまざまな業種・業態別の現場におけるクリティカルな課題を解決するにはCPS(サイバーフィジカルシステム)にデータを取り込む入力デバイスが欠かせない。なぜなら現場で働いているのは生身の人間であり、人々の行動というアナログ情報をデジタル変換してデータとして集積して分析して、はじめて行動の背景にある現場の業務課題などの価値ある情報が導かれるからである。
 世界でも卓越したすり合わせ技術と組み込みソフトウェアの能力をもつ当業界には、デバイスを出力機器としての位置付けではなく、入力から出力までの全体をカバーするIoTデバイスとして活用できる力がある。すなわち、人々の行動やそこで生じるドキュメントなどの画像やデータを解析する技術を組み合わせて顧客企業の現場の業務ワークフローの改革を支援する力、米国のIT企業とも戦える力がある。
 情報機器が使われるオフィスでの働き方改革に留まらず、当業界のモノづくりの力を活かすことで「健康で高い生活の質向上」、「安全・安心な社会」などの領域においても、画像を核とした新たなIoTデバイスを提供して目に見えない課題の可視化とその解決を導く価値を創出する大きなチャンスがあると考える。

 日本の産業界の復権にむけて会員企業の皆様方と知恵を絞り、社会価値創出の視点で手を繋ぐところは大胆に組んで、DX推進による日本の産業ならではの価値創出が加速されることを切に祈念する。