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理事エッセイ

2025年12月
「変化を受け入れるとともに、新たな変化を起こす」理事・副会長 浜 直樹 富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 代表取締役社長・CEO


 「変化にどう向き合うか」これは、あらゆる経営者に常に突きつけられる問いです。私自身、写真フィルムの全盛期から市場縮小、そして新たな事業創出の現場を経験してきました。

 1986年、私は富士写真フイルム(現:富士フイルムホールディングス)に入社し、1992年の秋まで、当時の主力事業であった写真フィルムの生産工場で生産管理を担当しました。旺盛なフィルム需要を実感した私にとって、2000年以降に加速したデジタルカメラの普及、そしてスマートフォンの登場による写真フィルムの急激な需要減少は、まさに衝撃でした。

 この変化に対して、富士写真フイルムは「第二の創業」を掲げ、保有する技術を棚卸しし、その進化と応用によってヘルスケアや高機能材料など成長が期待できる重点事業分野を定め、投資を進めました。当然、写真フィルムの需要を守るための試行錯誤もしましたが、デジタル化の流れにはあらがえず、当時大きな成果を得るには至りませんでした。しかし、写真を大切にする企業姿勢を守り続けた結果、近年ではアナログ写真の価値も再評価され、写真関連事業は重要な収益源の一つです。この経験から私が痛感したのは、「世の中の流れにあらがうのではなく、変化を受け入れること」の重要性です。

 変化を受け入れるとは、現状を諦めることではありません。むしろ、冷静に現実を見つめ、何を守り、何を手放すべきかを判断し、次の一手を打つことです。そして、その先にあるのは「変化を起こす」力です。事業の縮小が避けられないならば、いかにして「止血」するか。そして同時に、将来伸びる領域への投資をいち早く進めることが、企業の持続的な成長には不可欠です。

 今、事務機業界も大きな変化に直面しています。コロナ禍を契機に、私たちの働き方は様変わりしました。テレワークの普及により、オフィスの在り方そのものが大きく変わり、ペーパーレス化やDXへの流れは不可逆的なものとなりました。加えて、労働力人口の減少という社会構造の変化も、業界に大きな影響を与えています。人手不足が常態化する中で、業務の効率化や自動化は避けて通れない課題です。さらに、AIエージェントなど、企業のDXを推進する新たな技術も登場し、業務プロセスは根本から変わりつつあります。こうした環境の中で、プリント需要を従来の水準に戻すための施策を講じることは、もはや現実的な選択肢ではなく、時代に即した価値創造へと戦略的に方向転換を図る必要があります。

 だからこそ、私たちは「変化を生み出す」立場に立つべきだと考えます。自ら変化を牽引し、社会やお客様に新たな価値を提供していくことが、今後の企業に求められる姿勢です。変化をチャンスと捉え、新たな価値創造に取り組むことが、これからの時代における私たちの使命であると考えています。

 そして、このような時代において重要なのが、「競争」と「共創」の両立です。市場における健全な競争は技術革新を促し、製品やサービスの質を高めることにつながるでしょう。顧客対応力や提案力を磨き合うことは、お客様にとっての選択肢を広げ、業界全体の活性化につながります。一方で、自然災害や地政学のリスク、さらには環境規制の強化など、事業環境が不確実性を増す中で、安定した商品供給や共通課題への対応には業界内での連携を進め、新たな価値を共に創り出していくことが不可欠です。これは、単なるリスクヘッジにとどまらず、業界全体の底上げを実現する力にもなります。

 競争と共創は、相反するものではなく、むしろ相互に作用し合う関係にあります。競争が革新を生み出し、共創が持続可能な基盤を築く。この両輪をいかにバランス良く機能させ、戦略的に活用していくかが、今後の業界の命運を左右する重要な鍵であると私は考えています。

 富士フイルムビジネスイノベーションが、JBMIA会員のコニカミノルタ株式会社と調達領域における合弁会社を設立したのも、まさにこの考えに基づくものです。両社は市場では競い合う関係にあるものの、商品の強固な供給体制の構築など、事業基盤のさらなる強化に向けた共通の課題に対しては、共創することでより大きな成果を目指すという判断に至りました。一社単独で取り組むよりも、共同で取り組むことで、商品の安定供給や環境負荷低減など、社会やお客様にとっての価値をより高められるのであれば、積極的に進めていくべきであると考えます。

 私たちが直面している変化は、技術革新、社会構造の変化、働き方の多様化、価値観の変化など、複雑かつ多層的であるとともに、同時並行で進行しています。こうした変化にどう対応するかが、企業の持続的な成長に直結します。変化を機会と捉え、柔軟かつ迅速に行動することが企業の未来を築く原動力となります。業界として変化を味方につけることができれば、私たちはこれまで以上に強く、しなやかな産業へと進化できるはずです。企業の枠を越えて共通の課題に向き合い、業界の持続的な発展に向けたビジョンを共有する―そのための場がJBMIAであり、理事としてその役割を果たすことに強い責任と誇りを感じています。

 今後も、業界の持続可能な発展に向けて、変化を受け入れ、先を読み、そして変化を創り出していく。その連続的な挑戦が、次の時代を切り拓く力になると信じています。